富山県済生会高岡病院
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睡眠時無呼吸症候群

 今回お話しすることは、眠っている間に息が止まってしまう恐い疾患についてです。眠るということは我々人間にとって非常に大切なことです。人生の3から4分の1を我々は寝て過ごすのです。よりよい生活を送るにはよい睡眠を得ることが大切です。時間が長ければよい眠りとはいえません。最近耳にする言葉に睡眠時無呼吸症候群というものがあります。文字通り寝ているときに息が頻回に止まってしまうのです。十秒以上の無呼吸が一時間に5回以上のもの、または一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上起こる場合にこの疾患があてはまります。
 私の経験で、小さい頃祖父の横で寝ていたときに、ゴ-というイビキの後にしばらくの間息が止まるのを聞き、このまま祖父が死んでしまうのではないかと心配して寝られなかった思い出があります。
 症状としてはイビキ、日中の眠気や倦怠感、集中力の欠如、起床時の頭痛などがあげられます。ある調査では居眠りに関連した事故で損害額は年間120兆円に及ぶと概算しています。また、高血圧、脳卒中、心疾患など恐ろしい疾病を合併する率が高くなるともいわれています。
 多くは中高年の方が多いのですが、子どもにも1から3%の頻度でこの病気があると報告されています。子どもでは、落ち着きのなさ、集中力の欠如、きゃしゃな体になりがちといった症状が徐々に現れます。生活環境の変化で、眠らないことを善として育てられている現在、睡眠不足を訴える子どもは15年前に比べ約1.5倍に増加しているのです。睡眠時無呼吸症候群の多くは、閉塞型といって空気の通り道である気道が部分的あるいは完全に閉塞してしまうことにより起こります。図1はのどを口の中からみた図です。寝た状態で横からみたものが図2です。図2に示しますように、仰向けに寝ると重力により、舌、軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)が下に落ち込み気道を閉塞するような状態になり無呼吸を引き起こします。肥満体の人、首が短くて太い人、顎が小さい人などはもともと気道が狭くなりがちなので無呼吸になりやすいといえます。子どもの場合は、アデノイド(咽頭扁桃)や口蓋扁桃(よくいう扁桃腺)が大きいことが原因の大半です。

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さて治療法ですが、簡単なものとして睡眠中の体位の工夫があげられます。仰向けに寝ると無呼吸が増加することから、図3の様に背中にテニスボ-ルを縫いつけたりしてなるべく仰向けにならない方法があります。体位を横向きに枕などで固定してしまいますと寝返りができなくなってしまいますが、このテニスボ-ルを使った方法だと簡単に体位を変えられます。

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 次に、減量です。気道周囲についた脂肪を減らすことによって気道を広げるわけです。やせてもそれを維持しなければ意味はないし、急にやせるというのも体にはよくありません。きちんと食事指導を受けながら減量に取り組むことが大切です。3つめに、お酒を控えることも有効です。就寝前4時間は飲酒を避けることが必要です。酒によって気道粘膜の腫れや筋肉のゆるみが起こり、気道を狭めるのです。「わしゃ-酒を飲むとよく寝られるんじゃ」という方がたまにいらっしゃいますが、酒は眠りやすくなるかもしれませんが、眠りが浅くなってしまうのです。酒を飲んだ朝は早起きするなんて経験はありませんか?この作用によるものです。医療機関での治療法に、経鼻的持続陽圧呼吸療法、手術療法、マウスピ-ス治療などがあります。
 経鼻的持続陽圧呼吸療法という長ったらしい名の治療法は、図4の様に簡単な人工呼吸器を使って、鼻にマスクをかけ空気を送り込み気道が狭くなるのを防ごうとする治療法です。器械の使用については、基準を満たしていないと健康保険は適用されないので注意が必要です。

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手術療法は、子どもの場合に極めて有効です。全身麻酔下に咽頭扁桃(アデノイド)や肥大した口蓋扁桃を摘出すると、手術直後から多くの場合、無呼吸、いびきが消失します。大人はアデノイドや口蓋扁桃は縮小傾向にあるので、口蓋垂や軟口蓋を一部切除する方法(口蓋垂軟口蓋形成手術、図5)を行います。鼻閉を伴っている場合には、鼻内の形成手術を併せて行うとより効果的です。
 マウスピ-ス治療は下顎を前方に引き出すことにより気道の閉塞を防ぎます。

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 睡眠時無呼吸症候群についていろいろ書きましたが、イビキがある、日中眠たいという方は、一度検査を受けてみることをお勧めします。当科では、睡眠中の無呼吸を調べる器械を自宅に持ち帰り検査をしてもらっています。検査に入院はいりません。睡眠中にどれだけの無呼吸が起こるか、動脈中の酸素の量などが分かります。まさに寝ながらにして自分の睡眠状態が分かります。気楽な気持ちで受診してください。